ビター・スイート
キュレーター 佐藤恭子
アーティスト
坂本幸雪、濵崎壽賀子、Tomo、森下陽子、ジョセフ・エイヤース、ジョセフ・フレイア、オラ・ロンディアック
2023年8月21日(月)ー8月26日(土) [ 21−24日12-6pm | 25日(金)休館日、レセプション|26日(土)12-3pm ]
オープニングレセプション 2023年8月25日(金)6-8pm
ニューヨーク天理文化協会|43A W 13th St, New York NY 10011 | 212-645-2800
本展は、エミー賞放送作家の安達元一と在ニューヨークで日本文化の紹介で知られるキュレーターの佐藤恭子が手を組んだ展 覧会シリーズの第2弾です。本シリーズでは、ジャンルや経歴にとらわれずに興味深い作品を制作し日本で活躍しているアーティ ストを、世界最先端のアートシーンに取り込んで、ニューヨークを拠点に世界で活動するトップアーティストたちと効果的に交 流をし互いに刺激を与え合います。
*** 日本のテレビ界で長年活躍してきた感覚で美術界を斬る。古くからの伝統を重んじる世界に、自由奔放な発想で新しい風を吹 かせたい。有名な美術大学を出ていなくても、有力なギャラリーの庇護を受けていなくても、美しい作品は美しい、面白い作 品は面白い。魅力的なアーティストを世界で暴れさせてみたい。そんな型破りの挑戦を今回してみたいと思います。
— 安達元一
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ビター・スイートは、日本語には「ほろ苦い」と訳されます。曖昧な日本文化と言語を反映していて、「甘い」がきちんと訳さ れていません。英語では、「苦く」て「甘い」ので、相反する味が一緒にすることで、転じて喜びと苦しみとを同時に経験す ることに使われます。
これまでの私たちの世界は、西洋哲学に基づいてた二元論で理解されてきました。身体と精神、陰と陽、月と太陽、
女性と男 性、平和と戦争、表と裏、成功と失敗、西洋と東洋、富と貧困、普通と非常、ポジティブとネガティブ・・・。
しかし本当にこの二元論で分断してしまってもいいものでしょうか。ニューヨークでは、2011年に同性婚が認められ、その後 LGBTQ人権が認められました。この流れはどんな性であろうと誰もが幸せになる権利があるので正しいわけです。子どもたち もその教育を受けています。そして子どもによっては「ジェンダー・フルイッド」という考えを持っています。持っている身体
に関わらず、時にはオンナになり、時にはオトコになるというのです。つまり、中間にいて性を行き来している、二元論では割 り切れないということです。もしかしたら、私たちの世の中は、日本文化のように「曖昧」さのある世界へと向かっているの かもしれません。
坂本幸雪はパティシエですが、ケーキでは飽きたらずに大きなキャンバスにもシュガーアートを施すジャンルを創始しました。 砂糖は甘く、苦味はありません。モチーフは龍や朱雀といった東洋の伝説の動物たちで、西洋の動物はいません。色はパステル で、明るく優しく、暗さや厳しさはそこにはありません。しかしケーキに施すデコレーションは、元は西洋のものなので、そ こに東西の合流が見られます。
濵崎壽賀子は広島を拠点に活動しています。第二次世界大戦でアメリカが広島と長崎に原子爆弾を落として日本は敗戦しまし た。原爆がもたらしたあまりの無残さから、広島の人達はは今でもその影を背負って生活をしています。真っ暗闇から光を求め て広島では戦後直後に復興事業が展開されましたが、濵崎はその時作られた「箔」を画材にしています。原爆直後に川を流れて 死んでいった人達(闇)が最後に見た光景(光)、それがテーマで、彼女は光の部分を画面に表現しています。
Tomoは中国が起源の書道に使われれる墨と、イスラム起源とされるコーヒー(エチオピオで発見される)とを画材にしていま す。中国は東、イスラムは中東です。また、Tomoはインド起源の仏教の「般若心経」を描いています。インドは南アジアで す。かつては東西文化が強調されてきましたが、昨今ではそれだけではなく、中東、南アジア、さらにはアフリカといった地域 も大きな文化的な存在感を示していることを彼女の作品から気づくことができます。
森下陽子は「女性の心の解放」がテーマです。私たちの社会は何千年もの間、男性中心だったので、その慣習から自由になる には時間、工夫、努力が必要です。自身の日本的で個人的な体験から生まれた彼女の取り組みと作品は、男性との対比として の女性ではなく、真っ向から女性の美を捉えるものです。アート業界でも女性の評価が進んでいることを敏感に察知し自然な時 代の要求に倣い、女性に勇気を与える行為なのです。
ジョセフ・エイヤースの「ブラック・ビューティ」(2015)は、1本の木から切られた2本の木片に、木目を生かして女性の 体が描かれています。自然と女性が一体になっていて、女性は自然の一部だと感じられます。人間と自然は相反するもののよう ですが、エイヤースの作品から、実は私たちは地球上に動物の一種として生まれた自然の一部なのだと理解できます。
ジョセフ・ラルフ・フレイアはイタリア系のアメリカ人。西洋の目線から東洋の女性はエクゾティック、ミステリアス、極めて 優美、豪奢、魅惑的だという。それは世界がグローバル化で狭くなって、東と西とが混じりあっても変わらない特別な魅力あ る存在なのです。パンデミックのアメリカではアジア人女性への暴力が目立ちました。その点からフレイアの「アジア人女性 礼賛」の目線は価値あるものです。
ウクライナ系のオラ・ロンディアックの家族は、国の歴史に大きく左右されて生きてきました。第二次世界大戦中、西ヨー ロッパに逃げ遅れた祖母パラスケヴィア・ミチュニアックはロシアのモルドヴィア刑務所で最期を遂げました。囚われの身となっ た彼女は見張りの目を盗んで、魚の骨を針に刺繍を残しています。アメリカ生まれでキーウで25年間を過ごしたロンディアック の作品には、その祖母があしらった母子像などが頻繁に現れます。戦争は地獄、そしてアートは救いです。
ー 佐藤恭子
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【略歴】
坂本幸雪
韓国人の父と日本人の母の下、1991年福井県に生まれる。2008年BSフジ第1回スイーツ甲子園大会で優勝、2011年神戸国際調理製菓専門学校 を卒業。福井県でケーキデコレーション教室のウィルトンを主宰しつつ、2018年から砂糖を顔料とするシュガーアートをキャンバスに描き始め ジャンルを創始する。2019年、走水神社(はしうど神社、神戸市)で初個展、その後、愛知の龍城神社、青森の善知鳥神社、福井の毛谷黒龍 神社に作品を奉納。2021年、22年に大阪の阪急うめだ本店で個展を開催し、2020年から3年連続でワールドアート・ドバイでライブペインティ ングを披露して人気を誇る。
濵崎壽賀子
1960年山口県生まれ、広島在住。1983年日本デザイナー学院卒。1991年まで博報堂のデザイナー。その間、中国新聞広告企画賞(1987年) 、 テトラパック・インターナショナル社「デザイン・オブ・ザ・イヤー」最優秀賞(1988年)、広島広告企画制作賞(1989年)を受賞。2020 年、デザイン講座「壽ぎの書」を主宰。広島原爆関連のテレビ番組の「祈りの場の一年」の題字製作も手掛ける。(2022年、テレビ新広 島))広島三越ギャラリー(2017年)、箱根富士屋ホテル(2018年)、上野の森美術館(2022年)、雅灯(2021年、東京青山の日本料理 店)、岩惣(2022年、広島県宮島の老舗旅館)、大聖院(2022年、広島県宮島の真言宗大本山)で個展を開催。海外では2021年以降にパリと ドバイのアートフェア、2022年にSCOPEマイアミビーチ出展。
Tomo
1977年福岡県の書家の家系に生まれる。1999年、大東文化大学文学部中国文学科卒業、国語科と書道科の教職免許を取得。2011年から書道教 室の教佃をとる。2021年から海外で活動を開始、主な展示にサロン・アート・ショッピング・パリ出展(2021、2022年、カルーゼル・ドゥ・ ルーヴル)、エチエンヌ・コーザン・ギャラリーの個展(2022年)、ワールドアート・ドバイ出展(2022年)、シンガポール国立美術館で開 催のグループ展「JAPAN TIDE」(2022年)がある。今後も台湾、ドバイ、ニューヨークで展示予定。
森下陽子
1972年香川県生まれ、東京在住。1994年に京都の嵯峨美術大学を卒業後、デザイナー、イラストレーターとしてキャリアをスタート。2017年 頃から女性の心の解放を表現するアーティストとして活動を始め、同時に女性の自立を支援するための会社を起業する。2019年から自身の会 社(有)ココデザインズ主催で「オンナの背中50人展 YOLO FES」展(2022年)など東京で個展3本とパフォーマンス1本を開催。2022年、 恭仁神社で奉納パフォーマンス(京都)開催、ATC OSAKA ART展に参加(大阪)。同年、海外ではワールドアート・ドバイに参加、今後もカ ザフスタンやニューヨークで発表が決まっている。instagram のフォロワーは1万7000人。
ジョセフ・エイヤース
アーティスト、教育者、キュレーターで、現在ニューヨーク州ビーコンに在住。 伝統的なメディア、新しいテクノロジー、 ビデオ、サウンド、彫刻、アニメーションを組み合わせて、文化的・心理的な認識のつながりと不一致との両方を探求 している。作品の主題は個人的なものから政治的なものまで様々で、しばしば多様で異質な要素の間に抽象的な物語を 作り出す。フロリダ州ガルフコーストの田舎町で育ったエイヤースは、アメリカ空軍で5年間働いた後、ニューオーリン ズ大学でニューメディアの学士号を取得。 2007年、ニューヨーク市立大学ハンターカレッジで美術の修士号を取得後、 その教職に就く。現在、イーサン・コーエン・ファイン・アーツのギャラリーディレクターで、ニューヨークのパーソン ズ・スクール・オブ・デザインの准教授でもある。
ジョセフ・ラルフ・フレイア
1976年ニューヨークのブルックリン生まれ。ファインアートの写真家、作家、ストーリーテラー。ニューヨー クの名門サルマガンディ・クラブのレジデント・アーティスト。またLivein Magazineのチーフエディター兼シニ アコントリビューターであると同時に、ライター兼フォトレポーターとして、いくつかの国際的な出版物にも参 加。彼の作品は、様々なスタイルと被写体のユニークな組み合わせであり、すべてのイメージは、美と目的がど こにでも見つけられるように、深く意味のあるメッセージを伝えることを目的としている。
オラ・ロンディアック
1966年生まれ、ウクライナのキエフとニューヨークを拠点に活動するビジュアルアーティスト。現代的な女性の肖像画は、強さと決意のメタ ファーであり、彼女の彫刻は、団結と癒しを象徴。ワシントンDCのウクライナ・ハウス、ニューヨークのザ・ギャラリー、デラウェア州ウィ ルミントンのジョン・ウィリアム・ギャラリー、ウクライナ・キエフのヴォジアノフ・スタジオで個展を開催。グループ展は、LA アートショー
(2023年)、アート・パームビーチ(2023年)、アートマーケット・ハンプトンズ(2022年)、パームビーチ・モダン&コンテンポラリー (2022年)、コンテクストアート・マイアミ(2018、2019、2021、2022年)、ハドゾンリバー美術館(2020年)に参加。作品は、ウクライ ナ・キエフの革命と尊厳の美術館、スイス・ベルンのウクライナ大使館、ウクライナ・カニフのシェフチェンコ博物館&国立装飾芸術博物館、 パリのウクライナ大使館、ニューヨークのハドソンリバー博物館のコレクションになる。ウクライナ・キエフの歴史地区にあるロンディアック の壁画は、キエフのストリートアートの爆発的な広がりを象徴するものとなった。
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