雅号 淳溪 (じゅんけい) ②

278文字の阿修羅像(興福寺)黒紙白字経 「にひゃくななじゅうはちもじのあしゅらぞう(こうふくじ)こくししろじきょう)」Size 594mm(H) x 841mm(W)

本作は、奈良・興福寺に伝わる国宝「阿修羅像」をモチーフとし、仏教の六道のひとつである「阿修羅道」に、現代社会に蔓延する終わりなき争いを重ね合わせています。正義への過剰な執着は、かえって善を見失わせ、他者への思いやりを損ない、怒りや執着に囚われてしまう——そのような仏教的教えが、この作品に込められています。
その苦悩の象徴として、善と悪の対立を体現する帝釈天と阿修羅の存在が浮かび上がります。両者が繰り広げる果てしない戦いは、人間の内にある葛藤と苦しみを映し出し、私たちに問いかけます——真の「正義」とは何か、そして「慈悲」を見失った社会が向かう先には何がまっているのか。三つの顔と六本の腕を持つ阿修羅像は、怒りに満ちた世界に静かに向き合い、人間が持つ「祈りによる浄化の力」への希望を伝えています。穏やかな少年の表情は、争いや対立を超え、慈しみと共感から生まれる平和な風景を静かに見つめています。
この作品は、「写経」と「写仏」の技法を融合させた、独自の芸術表現である『写経アート』です。写経は、経典の一字一字を丁寧に書き写すことで心を調え「祈りを形にする行為」。一方、写仏は仏の姿を描くことにより、信仰の念を視覚化する「祈りの造形」です。これら二つが交わることで生まれた『写経アート』は、278文字の般若心経と仏像の姿が響き合い、内なる平穏へと導く道を照らします。
作品の根源には、東京国立博物館が所蔵する、世界唯一のサンスクリット語による『般若心経』写本「貝葉本」があります。この経典はインドにて生まれ、玄奘三蔵によって漢訳され、日本へと伝来しました。聖武天皇の時代から現代に至るまで、人々の心に寄り添って読誦されてきました。278文字という簡潔な構成ながら、「大般若経」のエッセンスを凝縮しており、弘法大師も「簡にして要、約にして深し」と讃えたほど、深い智慧を宿しています。写経は1500年以上続く般若心経との静かな対話であり、一文字一文字に祈りを込める行為です。揮毫とデジタル技術を融合させることで、静寂の中に霊性を感じさせ、争いを越えて心を結び直す力を秘めた作品となります。それは単なる美術作品ではなく、「祈りのかたち」であり、「想いの連鎖」でもあります。また、阿修羅像に秘められた怒りや戦いの力を、現代の平和への祈りへと昇華させることで、仏教美術の新たな可能性を切り拓いています。写経アートは「唯一無二の複写仏」であり、「唯一無二」と「複写」という一見相反する概念の融合によって生まれた芸術表現なのです。視覚と言葉の両面から心の浄化を促すこの作品は、精神性の継承と再創造を目指す、新たな一歩といえます。
そして「複写」とは、個人の枠を超えて祈りや想いを他者と共有し、広げていく手段です。ひとりひとりの祈りが、世界に優しさを広げ、平和の礎となる。そんな静かな確信が、この作品には込められています。
修羅の混沌を越え、平和な世界へと進む道を歩むこと、争いを鎮め、他者に手を差し伸べる希望の光が、一人ひとりの心に宿りますように。

怒りと妄執が渦巻き、現代社会に蔓延する終わりなき争いを、仏教の「阿修羅道」に重ね合わせました。興福寺の阿修羅像を象徴とする本作は、静かに手を合わせる祈りを通して争いを鎮め、心の浄化と平和の夜明けへと導きます。
写経と写仏が響き合うこの祈りの芸術は、『般若心経』278文字に想いを託し、仏への信仰をかたちにするものです。揮毫とデジタル技術の融合により、「世界が争いなく、慈しみに満ちるように」という願いを可視化します。
阿修羅像に秘められた「怒り」や「戦い」のエネルギーは、祈りによって「守り」や「癒し」へと昇華され、視覚と言葉がひとつになって祈りの連鎖が広がっていきます。
修羅の混沌を越え、平和な世界へと歩むこと、争いを鎮め、他者に手を差し伸べる希望の光が、一人ひとりの心に宿ることへの祈りなのです。

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